求償権は不倫の慰謝料トラブルの火種?トラブル回避の2つのポイント
- 作成日
- 2023/05/30
- 更新日
- 2023/05/26
目次
「夫が不倫をした。とりあえず離婚はせずに、不倫相手だけに慰謝料を払わせたい。だから、不倫相手から夫に、慰謝料の分担を求められること(求償)を避けたいけど、何かいい方法はある?」
配偶者が不倫をした場合の慰謝料の請求は、配偶者と不倫相手の2人両方に対して請求しても良いですし、一方だけに請求しても構いません。
離婚しない場合などは、不倫相手だけに慰謝料を請求するという方も多いです。
ですが、実は、不倫相手だけに慰謝料を請求すると、後から不倫相手から配偶者に「求償」されてしまうおそれがあるのです。
求償によって、新たなトラブルが生じないようにする方法は次の2つです。
配偶者が不倫をした場合の慰謝料の請求は、配偶者と不倫相手の2人両方に対して請求しても良いですし、一方だけに請求しても構いません。
離婚しない場合などは、不倫相手だけに慰謝料を請求するという方も多いです。
ですが、実は、不倫相手だけに慰謝料を請求すると、後から不倫相手から配偶者に「求償」されてしまうおそれがあるのです。
求償によって、新たなトラブルが生じないようにする方法は次の2つです。
- 不倫相手に求償権を放棄してもらう
- 不倫当事者間の慰謝料の負担額を決めておく
今回の記事では、
- 不倫の慰謝料における求償権
- 求償権によるトラブルを避ける2つのポイント
などについてご説明します。
不倫の慰謝料における「求償権(きゅうしょうけん)」とは?
例えば、夫が、妻以外の女性と肉体関係を伴う不倫をした場合には、基本的には夫の不倫は不法行為(民法709条)に該当しますので、妻に対して不法行為責任を負います。
そして、不倫相手も、相手が既婚であることを知っている時には、妻に対して不法行為責任を負います。
つまり、不倫の当事者2人は、妻に対して共同して不法行為を行ったものとして、共同不法行為者の関係に立ち、連帯して妻に対して慰謝料を支払う責任を負うことになるのです。
そして、不倫相手も、相手が既婚であることを知っている時には、妻に対して不法行為責任を負います。
つまり、不倫の当事者2人は、妻に対して共同して不法行為を行ったものとして、共同不法行為者の関係に立ち、連帯して妻に対して慰謝料を支払う責任を負うことになるのです。
共同不法行為には、「一部実行全部責任」という原則があります。
これは、不法行為の一部に加担すれば、発生した結果全部について責任を負うべき、という原則です。
ですから、妻は、夫と不倫相手のどちらか一方に、慰謝料を全額請求できるのです。
そして、夫または不倫相手が妻から慰謝料全額を請求されても、「相手が悪いから向こうに請求してほしい」「自分の責任分の半額だけ支払う」などと言ってその責任を免れることはできません(※請求された慰謝料が相場よりも高ければ減額交渉ができる可能性はあります)。
そして、不倫当事者の一方が、自分の責任部分を超えて慰謝料を支払った場合、もう一方の不倫当事者に対して、自分の責任を超えて支払った分について金銭の支払を求めることができます。
このような請求ができる権利を、「求償権」と言います。
不倫当事者の責任の負担割合については、いろいろな考え方がありますが、特段の事情がない限り、50:50と考えられます。
ただし、不倫の主たる責任は不倫をした配偶者にあるという考え方から、その配偶者が不倫関係に積極的だったなど、不倫の責任がより重いといえるような場合には、配偶者と不倫相手の責任割合が60:40などと判断されることもあります。
これは、不法行為の一部に加担すれば、発生した結果全部について責任を負うべき、という原則です。
ですから、妻は、夫と不倫相手のどちらか一方に、慰謝料を全額請求できるのです。
そして、夫または不倫相手が妻から慰謝料全額を請求されても、「相手が悪いから向こうに請求してほしい」「自分の責任分の半額だけ支払う」などと言ってその責任を免れることはできません(※請求された慰謝料が相場よりも高ければ減額交渉ができる可能性はあります)。
そして、不倫当事者の一方が、自分の責任部分を超えて慰謝料を支払った場合、もう一方の不倫当事者に対して、自分の責任を超えて支払った分について金銭の支払を求めることができます。
このような請求ができる権利を、「求償権」と言います。
不倫当事者の責任の負担割合については、いろいろな考え方がありますが、特段の事情がない限り、50:50と考えられます。
ただし、不倫の主たる責任は不倫をした配偶者にあるという考え方から、その配偶者が不倫関係に積極的だったなど、不倫の責任がより重いといえるような場合には、配偶者と不倫相手の責任割合が60:40などと判断されることもあります。
具体例
求償権の行使について、具体的にみてみましょう。
(1)慰謝料の請求の場面
例えば、不倫の被害者A(仮名)が被った損害について、慰謝料額が150万円だとします。
Aは、加害者であるB(仮名)及びC(仮名)に対して、それぞれ全額の150万円を請求することができます。
また、Bには請求せず、Cだけに150万円を請求することもできます。
AとBが離婚しない時は、Cだけに請求することが多いです。
なお、ここで気を付けたいのは、Aは、B及びCから「合計150万円を上限」として受領することができるということです。
150万円を双方に請求できるとは言っても、2重取り(合計300万円を受領)できるわけではありません。
もし150万円を超えて受領した場合には、不当利得(法的に保有する権利がない利益)として、返還を求められたら返還しなければなりません。
Aは、加害者であるB(仮名)及びC(仮名)に対して、それぞれ全額の150万円を請求することができます。
また、Bには請求せず、Cだけに150万円を請求することもできます。
AとBが離婚しない時は、Cだけに請求することが多いです。
なお、ここで気を付けたいのは、Aは、B及びCから「合計150万円を上限」として受領することができるということです。
150万円を双方に請求できるとは言っても、2重取り(合計300万円を受領)できるわけではありません。
もし150万円を超えて受領した場合には、不当利得(法的に保有する権利がない利益)として、返還を求められたら返還しなければなりません。
(2)求償権行使の場面
ここまでご説明したとおり、B及びCは、それぞれ慰謝料全額である150万円をAに対して支払う責任を負います。
ただし、責任の負担割合が50:50だとすると、その割合を超えて支払った分(この事例では、75万円を超えた部分)については、他方に対して求償することができます。
例えば、CがAに対して慰謝料150万円全額を支払った場合には、責任割合を超えて支払った75万円については、Bに対して求償することができるのです。
ただし、責任の負担割合が50:50だとすると、その割合を超えて支払った分(この事例では、75万円を超えた部分)については、他方に対して求償することができます。
例えば、CがAに対して慰謝料150万円全額を支払った場合には、責任割合を超えて支払った75万円については、Bに対して求償することができるのです。
ところで、AB夫婦が離婚した場合には、通常、この求償権が問題になることはあまりありません。
離婚後ABは別々に生計を立てていますので、Bが求償されてCに金銭を支払っても、通常はAに経済的な影響はないからです。
しかし、AB夫婦が離婚せず、婚姻関係を継続していると、通常はABの家計は一つです。
そのような場合にCに求償権を行使されると、結局夫婦の共有財産から出費して支払うことになってしまいます。そのため、求償権を行使されると、新たな夫婦間のトラブルとなりかねず、注意が必要です。
離婚後ABは別々に生計を立てていますので、Bが求償されてCに金銭を支払っても、通常はAに経済的な影響はないからです。
しかし、AB夫婦が離婚せず、婚姻関係を継続していると、通常はABの家計は一つです。
そのような場合にCに求償権を行使されると、結局夫婦の共有財産から出費して支払うことになってしまいます。そのため、求償権を行使されると、新たな夫婦間のトラブルとなりかねず、注意が必要です。
夫の小遣いだとか、結婚前の貯金から支払わせるという場合はどうですか?
妻としては、後で不倫相手から夫が求償されても構わない、という場合は特に問題ありません。
大切なのは、不倫相手だけに慰謝料を請求すると、後から夫が求償される可能性があることを分かった上で、不倫相手に慰謝料を請求すべきだということです。
うーん。夫が求償されるのは構いませんが、求償だ何だと夫と不倫相手の関係がずるずる続くのは嫌ですね。
どうしたら良いでしょうか?
その場合には、これからご説明する方法を取れば良いでしょう。
求償権によるトラブルを避けるための方法
求償権に関するトラブルを避けるための方法として、主に、次の2つがあります。
不倫相手に求償権を放棄してもらう
不倫の当事者間の慰謝料の負担額を決めておく
それぞれ、どういうことなのか説明します。
(1)不倫相手に求償権を放棄してもらう
後々、不倫相手から配偶者に対し、求償権を行使されるリスクを負いたくないという方は、不倫相手に慰謝料を請求する際に、求償権の放棄も求めるとよいでしょう。
他の人を傷つけたり迷惑をかけなければ、権利は、自由に放棄することができます。
不倫相手に慰謝料を支払わせる時に、不倫相手に求償権の放棄を約束してもらえば、後から不倫相手が配偶者に対して求償権を行使することはできません。
他の人を傷つけたり迷惑をかけなければ、権利は、自由に放棄することができます。
不倫相手に慰謝料を支払わせる時に、不倫相手に求償権の放棄を約束してもらえば、後から不倫相手が配偶者に対して求償権を行使することはできません。
ただし、不倫相手から、「求償権を放棄するから慰謝料を減額してほしい」と言われ、減額交渉のカードとして求償権が利用されることはあります。
「慰謝料の減額なんて許せない」と思われるかもしれません。
しかし、不倫相手も求償権という権利を放棄するわけですから、その代償を求めることは間違ってはいません。
不倫相手に慰謝料を請求する場合、慰謝料の相場などから、そもそも配偶者と不倫相手にいくらくらい請求できるのか、それぞれの負担部分はどの程度なのか調べておきましょう。
なお、裁判上の慰謝料の相場は、次の通りです。
「慰謝料の減額なんて許せない」と思われるかもしれません。
しかし、不倫相手も求償権という権利を放棄するわけですから、その代償を求めることは間違ってはいません。
不倫相手に慰謝料を請求する場合、慰謝料の相場などから、そもそも配偶者と不倫相手にいくらくらい請求できるのか、それぞれの負担部分はどの程度なのか調べておきましょう。
なお、裁判上の慰謝料の相場は、次の通りです。
- 離婚しない場合:約数十万~約100万円
- 不倫のせいで離婚する場合:約100万~約300万円
慰謝料の額や求償権の放棄の約束などの話合いが終了したら、和解書や公正証書にしっかりと記載して証拠を残すようにしましょう。
口約束ではだめですか?
口約束でも有効ですが、後になって「そんな約束はしていない」と言われると結局、もめてしまいます。やはり証拠を残しておくことが大切です。
(2)当事者同士で慰謝料の負担額を決めておく
求償権を行使されないようにするために、自分(妻)・不倫した配偶者(夫)・不倫相手といった当事者の間で、慰謝料の負担額について合意しておくという方法もあります。
例えば、妻に対する慰謝料が100万円であれば、不倫をした夫60万・不倫相手40万といったように負担額について上記三者間で合意します。
例えば、妻に対する慰謝料が100万円であれば、不倫をした夫60万・不倫相手40万といったように負担額について上記三者間で合意します。
このような合意ができていれば、妻が不倫相手に40万円を請求して、不倫相手が40万円を支払った場合には、不倫相手が夫に求償することなく、基本的に問題は終わりです。
このケースの場合も、そんな合意はしていないと言われないように負担割合の合意は書面上で行っておきましょう。
このケースの場合も、そんな合意はしていないと言われないように負担割合の合意は書面上で行っておきましょう。
求償権のトラブルを残さないためにも示談書作成が大事
慰謝料を請求された不倫相手が、それを機に関係を断ちたいと考えて求償権を行使しないケースも少なくありません。
ですが、不倫相手が配偶者と関係を修復して、自分だけが慰謝料を支払うということに不公平感を持つ方もいます。
場合によっては、不倫をした配偶者が、不倫相手から求償を求めて訴訟を提起される可能性があります。
不倫相手と慰謝料について合意する場合には、後々トラブルにならないように、しっかり示談書などを作っておくことをお勧めします。
また、不倫相手に慰謝料を請求するだけでなく、今後のトラブルを見据えて示談をするには、いろいろなことに気を配る必要があります。
例えば、次のような点についてもしっかり取り決めておく必要があります。
ですが、不倫相手が配偶者と関係を修復して、自分だけが慰謝料を支払うということに不公平感を持つ方もいます。
場合によっては、不倫をした配偶者が、不倫相手から求償を求めて訴訟を提起される可能性があります。
不倫相手と慰謝料について合意する場合には、後々トラブルにならないように、しっかり示談書などを作っておくことをお勧めします。
また、不倫相手に慰謝料を請求するだけでなく、今後のトラブルを見据えて示談をするには、いろいろなことに気を配る必要があります。
例えば、次のような点についてもしっかり取り決めておく必要があります。
- 慰謝料を分割で支払う場合には、今後の支払をしなかった時の対処法(〇回支払いを怠ったら一括請求する、等)
- 今後は配偶者と一切連絡をしないという接触禁止についての約束とそれに反した場合の違約金
- 不倫や示談をしたことについての守秘義務 など
場合によっては、単なる当事者間の書面ではなく、公正証書で作成すべき場合もありますので、この内容で大丈夫かな?と不安に思った時は、事前に弁護士に相談されることをお勧めします。
【まとめ】不倫相手に求償権を行使されたくない場合は、求償権の放棄等が有効
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 求償権とは、不倫の当事者の一方が慰謝料全額を支払った場合に、他方に対して、自分の責任を超えて支払った部分について金銭の支払を求めることができる権利を言う。
- 不倫をした配偶者には慰謝料を請求せず、不倫相手に対してのみ慰謝料を請求する場合には、後々、不倫相手から配偶者に求償権を行使されるリスクがある。
- 求償権を行使されて新たなトラブルにならないためには、慰謝料を請求する際には次の点に注意する。
- 予め不倫相手に求償権を放棄させる
- 自分・配偶者・不倫相手の3者で話合い、配偶者と不倫相手の負担割合を決め、不倫相手の負担割合分の慰謝料を支払わせる。
アディーレ法律事務所では、不倫の慰謝料請求につき、相談料、着手金をいただかず、原則として成果があった場合のみ報酬をいただくという成功報酬制です。
原則として、この報酬は獲得した賠償金等からのお支払となりますので、予め弁護士費用をご用意いただく必要がありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
原則として、この報酬は獲得した賠償金等からのお支払となりますので、予め弁護士費用をご用意いただく必要がありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
この記事の監修弁護士
慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。
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